その後

2005年4月28日
 実家での生活は快適で、地元を離れる原因となった彼とも復活し、またこちらのクラブで勤めだし、順調な日々を送っていた。
 その矢先、妊娠発覚。
 彼のことは好きだ。でも、彼には他にわたしより長い女がいることをMさんから聞いて知っていた。彼女は素人のお嬢さんだけど、なかなか良く出来た人のように聞いている。面識はないが、蹴落とすべきライバルというよりは、同志に近い感情を持っていたのかもしれない。おかしな話だが好感すら抱いている。もちろん嫉妬もあるけれど。
 もうすぐ40歳になろうかというのに定職にも就けず借金と年老いた両親を抱え、おまけに背はわたしより低く顔もたいしたことはない彼だけど、わたしはとてもとても彼が好きだ。
 どんな苦労をしてもかまわない、という気持ちにもなりかけるくらい好きだ。わたしの何処にそんな健気な気持ちが残っていたんだろう、と思うくらい。
 彼の長い彼女の事を知らないフリをすること、子供を産みたいのなら、そうするのが得策なのも解っていた。結婚、出産というスッテップを踏むのが、世間の常識でもあり、わたしの親の常識でもある。
 でも、わたしは彼のことを結婚する相手だとは考えてはいなかった。彼はそのうちまた稼げるようになるかもしれない、でも一生わたしの稼いだものを使い続けるだけかもしれない。信頼とか希望は長い時間の間に擦り切れて、なくなってしまっていることは、子供が出来る前から自分でよく解っていたことなのだ。
 結局は結婚するしかないか、という雰囲気の彼に「わたしより長い女がいるんでしょ?それはいいの?」と余計な水を向け、彼に逃げ道を与え、自分も逃げた。
 そうして子供は犠牲になった。

 あなたが悪いんじゃないからね、と、いくら伝えても彼は自分を責めるだろう。
 わたしがただ一つ望んだのは、結婚の形ではなく彼の気持ちだ。彼が何を犠牲にしてもわたしを幸せにしようと思ってくれるのなら、マイナスだらけの状況の中でも、喜んでわたしは腹を括ったかもしれないが、それがないのなら、姿形だけが目の前にあっても目障りなだけなのだ。
 そして、わたしはつくづく汚い女だ。この状況を知っても、それでも好きだと言ってくれる男が他にいる。憩う場所がある。
 彼の長い彼女のことはたまたま友人のMさんから聞いて知っていただけで、やってることは彼と変わらない。
 モラルが薄いわたしや彼みたいな人間は、同時に何人も好きになれるのだろう。ただ、わたしは生理的な嫌悪感から同時に何人も平行してカラダの付き合いが出来ないだけで、やってることは彼と全く変わらない。あからさまにしなかった分、わたしの方が罪深いだろう。
 殺人は2度目だ。
 自分のために子供を殺してしまう母親。犬畜生にも劣る。
 それでも、それでも幸せになろうとするわたし。
 許しを請うことは、多分もうしないだろう。

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