お祝い
2004年10月20日 吉報を受けた。
わたしの部屋にはドライフラワーが飾ってある。
仕事柄、今までに沢山の花束を貰ったが、ドライフラワーにしたのはそれが今のところ最初で最後だ。
内心では、花より現金や金目のものが嬉しいと思うが、その花束は心底嬉しかったのだ。
わたしは、余程その男が好きだったのだろう。
昔々の話だが、わたしが20歳の頃、彼は37歳で、他部署の上司だった。
わたしが学生の頃に一緒に仕事をしていたカメラマンが、その企業のあるスポーツ部門の専属カメラマンをしていたのが縁で、誘われてわたしはよく試合を見に行ったりするうちに、コーチだった彼と仲良くなった。
彼は妻子持ちで、そして固い社風の企業で同期ではトップをきって出世街道を登っていた頃だったので、多分に慎重で、わたしは随分ともどかしい思いをしたものだ。
時々、内緒でデートもどきの食事をしたが、結局在籍中は食事止まりで、関係を持ったのは会社を辞めてしばらくした頃。
偶然に街で再会して、相変わらずに素敵なのが嬉しくてわたしは駆け寄った。
キレイになったねと彼は言い、そうしてその夜わたしは彼と寝た。
今では全部茶色くなっているけど、黄色い花とピンクの花と白薔薇の、少し子供っぽい可愛らしい花束をくれたのは、その次に会った時だった。
年齢からして、当時好きだった男と同時進行なのだが、二股をかけたとかそういう思いはこれっぽっちもなく、都合の良い話だが、全く別の部分で好きだったような気がする。
彼は要領の良さと抜け目のなさ、そして優しさを持っている人だった。
良い人でありたいと願いつつも、それだけでは立場上やっていけないという苦悩。
苦悩しつつも、残忍な事をやってのける冷酷さ。
恐らく内心では、後味が悪かったりしたのだろうが、そんな事を彼はあえて言う人ではなかったので、本当のところは解からない。
ただ何となく普段よりお酒が進んだり、饒舌に昔話をしてみたりする時の彼を見ると、その肩にそっと手をおいて背中をさすってあげたいような衝動がしたものだった。
東京に来てからも出張の度に会っていたので、わりと長い間彼とは続いた事になる。
自らも店に来てくれたし、お客サマも随分紹介してくれて随分と売上協力してもらったものだ。
最後は、上京して一年目の秋だったと思う。
最後も普段と変わらなかった。
また来月は会えると思っていた。
なのに、ある日仲の良かった先輩からの電話で「アンタと仲の良かったIさん、○○に出向したよ。」と、その時に彼の左遷を知った。
彼の携帯は会社のものだったし、メールアドレスも新しい出先のものに変わってしまうだろう。
連絡しようと何度も思ったけど、でも出来なかった。
何も知らないフリをして連絡をしようかと思ったけど、彼の口から聞いたところで、どんな言葉を返したら良いのかも解からなかった。
わたしだったら。
わたしだったら、何の言葉も要らない。
ただほおって置いて欲しいと思うだろう。
そう思って、連絡するのは辞めた。
そのまま3年もたってしまった。
多分、それは彼に関しては間違ってはいなくて、きっと連絡はしない方が良かったのだと最近はそう思っていた。
そんな彼の本社かえり咲きを今日、先輩からの電話で知った。
しかも前より昇格して。
どんなウルトラCを使ったのかは知らないが、あの抜け目のなさと要領の良さがあれば、それも可能か。
彼に日陰は似合わない。
おめでとう、と心から思う。
そして、色あせたドライフラワー。
これはもう捨てても良いだろう。
わたしは、今もこうしてあの時の花束の色をちゃんと覚えているのだから。
わたしの部屋にはドライフラワーが飾ってある。
仕事柄、今までに沢山の花束を貰ったが、ドライフラワーにしたのはそれが今のところ最初で最後だ。
内心では、花より現金や金目のものが嬉しいと思うが、その花束は心底嬉しかったのだ。
わたしは、余程その男が好きだったのだろう。
昔々の話だが、わたしが20歳の頃、彼は37歳で、他部署の上司だった。
わたしが学生の頃に一緒に仕事をしていたカメラマンが、その企業のあるスポーツ部門の専属カメラマンをしていたのが縁で、誘われてわたしはよく試合を見に行ったりするうちに、コーチだった彼と仲良くなった。
彼は妻子持ちで、そして固い社風の企業で同期ではトップをきって出世街道を登っていた頃だったので、多分に慎重で、わたしは随分ともどかしい思いをしたものだ。
時々、内緒でデートもどきの食事をしたが、結局在籍中は食事止まりで、関係を持ったのは会社を辞めてしばらくした頃。
偶然に街で再会して、相変わらずに素敵なのが嬉しくてわたしは駆け寄った。
キレイになったねと彼は言い、そうしてその夜わたしは彼と寝た。
今では全部茶色くなっているけど、黄色い花とピンクの花と白薔薇の、少し子供っぽい可愛らしい花束をくれたのは、その次に会った時だった。
年齢からして、当時好きだった男と同時進行なのだが、二股をかけたとかそういう思いはこれっぽっちもなく、都合の良い話だが、全く別の部分で好きだったような気がする。
彼は要領の良さと抜け目のなさ、そして優しさを持っている人だった。
良い人でありたいと願いつつも、それだけでは立場上やっていけないという苦悩。
苦悩しつつも、残忍な事をやってのける冷酷さ。
恐らく内心では、後味が悪かったりしたのだろうが、そんな事を彼はあえて言う人ではなかったので、本当のところは解からない。
ただ何となく普段よりお酒が進んだり、饒舌に昔話をしてみたりする時の彼を見ると、その肩にそっと手をおいて背中をさすってあげたいような衝動がしたものだった。
東京に来てからも出張の度に会っていたので、わりと長い間彼とは続いた事になる。
自らも店に来てくれたし、お客サマも随分紹介してくれて随分と売上協力してもらったものだ。
最後は、上京して一年目の秋だったと思う。
最後も普段と変わらなかった。
また来月は会えると思っていた。
なのに、ある日仲の良かった先輩からの電話で「アンタと仲の良かったIさん、○○に出向したよ。」と、その時に彼の左遷を知った。
彼の携帯は会社のものだったし、メールアドレスも新しい出先のものに変わってしまうだろう。
連絡しようと何度も思ったけど、でも出来なかった。
何も知らないフリをして連絡をしようかと思ったけど、彼の口から聞いたところで、どんな言葉を返したら良いのかも解からなかった。
わたしだったら。
わたしだったら、何の言葉も要らない。
ただほおって置いて欲しいと思うだろう。
そう思って、連絡するのは辞めた。
そのまま3年もたってしまった。
多分、それは彼に関しては間違ってはいなくて、きっと連絡はしない方が良かったのだと最近はそう思っていた。
そんな彼の本社かえり咲きを今日、先輩からの電話で知った。
しかも前より昇格して。
どんなウルトラCを使ったのかは知らないが、あの抜け目のなさと要領の良さがあれば、それも可能か。
彼に日陰は似合わない。
おめでとう、と心から思う。
そして、色あせたドライフラワー。
これはもう捨てても良いだろう。
わたしは、今もこうしてあの時の花束の色をちゃんと覚えているのだから。
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