根無し草

　オーナーより電話。
　「遊んでばっかりいるんだったら、出勤してくれ。」
　嫌。
　せっかく辞めたのに。
　「お客サマに呼ばれた日だけにしておきます。
　わたし、遊んでいるんじゃないんです。毎日、忙しいんです。」
　本当は、お客さんに呼ばれても、もう行かない方がいいんだろうけど。
　接待だ、頼むと言われれば、一肌脱いでおこうか、という気になる。
　頼まれると、断れない、この性格。
　なんとかしたい。
　ただのお人よしだ。
　
　くだんの彼も結婚する事だし。
　実家に帰ってもいいかなあ、と思う。
　歯ブラシまで共有出来る妹のような友人と。
　元彼の友人Mさん。
　熱烈な帰っておいでコールに、帰りたい気持ちが高まる。
　根無し草のように揺れる、いい加減なわたし。
　
　父親の携帯に電話。
　甘えるときは、母よりも父と、昔から決めている。
　「ねえ、帰ってもいい？
　もう、働くの疲れちゃった。」
　父は、娘であるわたしに、当然甘い。
　「帰ったら、働かなくてもいい？あと、結婚しろって言わないでくれる？」
　自分の娘がこんなにフザケた事を言って、父も悲しいだろうとは思うものの。
　放任主義の母親と違って、わたしの事が心配でたまらない父は、帰る気になったのがとても嬉しいらしい。
　父があんまり優しいので、少し泣きたいような気分になる。
　
　すぐに母から電話がくる。
　当然、呆れている。
　こちらからは、優しい言葉などない。
　切羽詰まってない事は、お見通しのようで。
　「別に帰らなくてもいいんでしょう？」
　それはそう。
　でも。
　「お父さんが良いって言ったもん。
　好きな時に帰らせて頂きますので、よろしく。」

　気が向いたら帰ろう。